Inocybe obscura Gillet, Hymenomycetes Champ. France: 515. 1876

和名 (Japanese name): ヒカゲクロトマヤタケ (Hikage-kurotomayatake)
Subgenus Inocybium, Section Lilacinae

= Inocybe phaeocomis var. major (S.W. Peterson) Kuyper

= Inocybe cincinnata var. major (S. Petersen) Kuyper 1989


この種は仮同定です。

<資料> 香美町村岡、兎和野高原にて採取された成菌7個体について記載

傘と柄が毛羽立ち、柄の上部が紫がかる小型のアセタケ。子実体に紫彩があるのが Sec. Lilacinaeの特徴。

柄の上部にのみ紫彩、傘と柄にささくれ鱗皮、縁シスチジアが多量の薄膜棍棒状が多量で、厚膜のシス チジアは少ない。側シスチジアが紡錘形のメチュロイドでやや黄~黄褐色の内容物を持つ、などの特徴からヒカゲクロトマヤタケとした。

肉眼的特徴:

傘: 帯灰褐色~ 暗 褐色、径15-20mm, 逆毛状の鱗片が毛羽立ち、しばしばひび割れて傘の肉が白く見える。
柄: 上部が帯紫色になるのが大きな特徴。下部が帯褐色。繊維状のささくれで覆われ、基部は類白色。

顕微鏡的特徴:

Spores(胞子): 平滑で、楕円形~アーモンド形 8.5-11.5 x 5.3-6.3um, Q=1.5-1.9(-2.1) (Vol.=20)
Ref.1 : 8.0-10.3 x 5.5-6.5 um, Q = 1.5-1.7

Cheilocystidia (縁シスチジア): 厚膜のシスチジアは数が少なく、太めの紡錘形~太鼓腹形。一方、殆ど薄膜~少しだけ厚膜の広棍棒状のパラシスチジア(終端細胞:16-33 x 10-16um)が非常に多数分布する。このパラシスチジアは連鎖状でやや薄茶色を呈するか?。


Pleurocystidia(側シスチジア): 厚めの厚膜メチュロイド、紡錘形~狭紡錘形, 頂部に結晶をもつ、 50-68 x 12-18 um (Vm.=12)、やや黄~褐色の内容物を持つ。
Ref. 1: 84-105 x 10.0-13.8 um


Caulocystidia(柄シスチジア): ごく頂部のみ、紡錘形のメチュロイドと、薄膜で棍棒、円筒形のパラシスチジア多数が混じる。


標本: 香美町村岡 兎和野高原 2008/09/21 (Herb. No.14)

考察:

本種は、最初 I. cincinnata (クロトマヤタケモドキ)と同定していたのですが、小林孝人先生にアドバイスを頂き、I. obscura (ヒカゲクロトマヤタケ)に変更いたしました。両種とも、柄の上部にのみ紫彩があり、外見的特徴が大変似ています。多くの図鑑でも、本種は I. cincinnata var. cincinnataの変種 (var. major) として扱われているぐらいです。

I. cincinnata とのマクロな違いは、I. cincinnata は傘系が25mm以下(I. obscuraは最大50mm)で、細長い子実体をしている点のようです。

また、顕微鏡的特徴の違いとしては、縁シスチジアの様子が違うようです。I. obscuraは、厚膜のメチュロイドタイプのシスチジアが少ししかなく、代わりに薄膜で広棍棒状のパラシスチジアが多数分布し、そのサイズもずっと大き い。一方 I. cincinnataは、紡錘形の厚膜シスチジアが多数分布し、その回りに類球形~広棍棒形の薄膜パラシスチジアがある。また、このI. obscuraの側シスチジアは黄色の内容物を持つものが多い。

他の近縁には、全体が紫彩を帯びる I. griseolilacina がある。しかし、I. griseolilacinaは柄のCaulocystidiaを欠くとの記述があったため候補からは外したが、可能性は残 る。

クロトマヤタケは、柄に紫彩がなく、胞子はずっと細長い長楕円形なので区別ができる。

memo:
Section Lilacinae検索表:(Ref. 1より)

1. 傘表皮は平行菌糸被。反り返った鱗片はない             ・・・・I. amethystina
1. 傘表皮は平行菌糸被ではない。
 2. 傘表皮は不規則な菌糸からなる。反り返った鱗片を持ち紫褐色 ・・・ I. griseolilacina
 2. 傘表皮は毛状被。
  3. 側シスチジアは太鼓腹~紡錘形で頭状の頂部をもつ        ・・・ I. ozeensis
  3. 側シスチジアは狭円筒形~太鼓腹形で頭状の頂部をもたない
    4. 子実体は細長い。側シスチジアは褐色の内容物を持たない  ・・・ I. cincinnata
    4. 子実体は細長くない。側シスチジアは褐色の内容物を持つ  ・・・ I. obscura

References:
  1. The taxonomic studies of the genus Inocybe (T. Kobayashi) No.48
  2. Fungi of Switzerland Vol. 5, No.11
  3. Die Gattung Inocybe in Bayern No.72

採集地: 
 1. 香美町村岡 兎和野高原 2008/09/21 (Herb. No.14)

Latest update: 2011/10/19